がん研究
1.細胞周期調節因子のユビキチン分解異常がもたらすがんの進展機構の解明
癌の発生には、細胞周期の異常は必須であると考えられています。細胞周期を調節する因子の多くは、ユビキチン分解システムによりタンパクの質的・量的制御を受けることが知られており、細胞周期調節因子の質的・量的制御が細胞周期の円滑な進行を制御していることが明らかにされつつあります。これまでに、癌における細胞周期調節因子の発現異常に関する多くの研究がなされてきましたが、細胞周期調節因子の異常が生じるメカニズムについての報告は未だ少ないのが現状です。我々は、細胞分裂期で活性化するAnaphase promoting complex/cyclosome(APC/C)ユビキチンリガーゼ複合体の基質分解機構(Nat Commun 2013, J Cell Sci 2020)やAPC/Cの抑制因子であるEmi1(J Biol Chem 2013)に着目して研究を続けています。APC/Cのサブユニットのノックアウトマウスが様々ながんを発症することからも発がん過程において非常に重要な役割を担っていると考えられます。実際にChromosome Passegenr Complexの構成因子であるBorealinの分解不全が口腔がんの代謝に関与すること(Biochem Biophys Res Commun 2024)、多能性幹細胞の未分化性維持に必須であること(Science Signal 2025)、を明らかにしています。細胞周期調節因子のユビキチン分解機構やその制御機構の破綻による癌化との関連を明らかにすることが、がんの発生機構の解明のみならず新たな抗がん剤の開発や治療法への応用につながると考えています。
2.脱ユビキチン化酵素に対するsiRNAライブラリを用いた口腔癌の生物学の理解
口腔癌の主要な組織型は扁平上皮癌であり、ハイリスクヒトパピローマウイルス(HPV)陰性癌と陽性癌のサブタイプに分けられることが知られています。乳癌などではサブタイプごとにそれぞれ異なった治療がすでに行われており、肺腺癌や慢性骨髄性白血病などでは発癌に関与する融合遺伝子を標的とした分子標的療法が開発されています。しかしながら、口腔癌を含む様々な臓器の扁平上皮癌に対するサブタイプや生物学的態度の違いに応じた治療法は存在しません。そこで我々は阻害剤開発の可能な脱ユビキチン化酵素に着目し、すべての脱ユビキチン化酵素に対するsiRNAライブラリを構築し、口腔癌を含む扁平上皮癌のサブタイプや生物学的態度ごとに特異的に作用する脱ユビキチン化酵素のスクリーニングを実施することで、新たな分子を同定し、解析しています(未発表)。これらのスクリーニングによって口腔癌の生物学を理解するとともに特異的な分子標的療法の開発につなげたいと考えています。
免疫研究
1.シェーグレン症候群の病態解明に関する研究
私たちの体の中では、絶えず細菌やウイルスなどの外来の病原体を排除する免疫システムが正確に作動しています。免疫システムは決して自分自身の組織や細胞を攻撃することは無いはずなのですが、様々な原因で免疫システムの機能異常が生じると、自身の体を自身の免疫システムによって攻撃してしまう『自己免疫疾 患』が発症します。ドライアイ、ドライマウスを主な症状とするシェーグレン症候群は涙腺や唾液腺を標的臓器とする自己免疫疾患です。私どもの研究室では シェーグレン症候群の疾患モデルを中心として、その病態機序に関して多角的なアプローチで研究を進めています。病因に基づいた新たな診断法や治療法を開発 することで、免疫難病に苦しむ世界中の多くの患者様が少しでも健康を取り戻すお手伝いができればと願っております。
2.自己免疫疾患におけるT細胞シグナルに関する研究
免疫システムにおける自己、非自己の認識はT細胞が主役を担っています。骨髄由来のT細胞前駆体は胸腺において非自己に のみ反応するような教育を受けることによって、正常なT細胞が中心となって私たちの末梢の免疫システムを維持しています。末梢のT細胞に様々な刺激が伝わり、多様なシグナルカスケードが作動することによって、T 細胞を中心とした免疫反応が引き起こされます。T細胞の複雑なシグナルに少しでも異常が生じると、正常な免疫反応を維持することができなくなります。私どもの研究室ではT 細胞における様々な受容体分子、シグナル分子、転写因子などの発現や機能に異常が生じることによって発症する自己免疫疾患の病態機序を解明しようとし ています。T細胞を標的とした新たな治療薬の開発が期待されています。